一番ないと困る生薬とは?

生薬の卸価格が変動しています。竹節人参ちくせつにんじんがとても手に入りにくくなってきました。また、桂枝けいし麻黄まおうの仕入れ価格も上がってきています。竹節人参は小柴胡湯しょうさいことうに、桂枝、麻黄は共に葛根湯かっこんとう麻黄湯まおうとうに使われます。どれも呼吸器疾患によく使われる漢方処方なのですが、漢方が新型コロナに効くという話が中国であり、価格が上がっているのはそのことと関係があるのでしょうか?

さて、何百種類とある生薬の中で一番手に入らないと困る生薬と言えば何でしょう?替えの利かない麻黄か?それとも陰証の極みを救う附子ぶしでしょうか?どちらも特定の漢方薬を調合するうえでは必要不可欠なのですが、最も幅広く使われる生薬と言ったら甘草でしょう。実に7~8割の処方に配合されています。主には他の生薬同士の調和を取る目的で配合されると言われていて、甘草なしではうまく効かないのですよね。

でも、この甘草が主役になる場合があります。江戸時代の生薬の辞典には漢方について“急迫を主治する”と、ひと言で書かれているのですが、のどの急な痛みに甘草だけを煎じた甘草湯かんぞうとう。胆石などの急な痛みには芍薬を加えた芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう。激しい下痢に甘草瀉心湯かんぞうしゃしんとう。脈が乱れたら炙甘草湯しゃかんぞうとうと、“急”に差し“迫”った症状を甘草を主役にすることで治すことができます。

現代では甘草の有効成分の一つにグリチルリチンという成分が同定されています。グリチルリチンは骨格がステロイドにそっくりで、その作用もステロイド様作用と言われます。そのためグリチルリチンの主作用はステロイドと同じく抗炎症作用、免疫調節作用です。
現代では感染などによる炎症や自己免疫疾患、急性アレルギーなどにステロイドの内服薬が頻用されます。まさに急に差し迫った症状を治す甘草はこのことを言っていたのかも知れません。ステロイドホルモンなど知りようもなかった江戸時代によく甘草の働きをここまで観察したと感心します。

そういえばステロイドと言えば喘息に頻用されますが、甘草が入った猛烈な咳に使う漢方薬は・・・ありました、発作性の咳によく使われる、麻杏甘石湯まきょうかんせきとう(麻黄、杏仁、甘草、石膏)ですね。




甘草の刻みの写真です。

甘草はウラルカンゾウというマメ科の植物の根で、砂糖の100倍以上の甘さから甘い草という名称がつきました。
西洋ではスペインカンゾウをリコリスと言い、甘みづけのハーブとして使われています。